産後11ヶ月。社会福祉士資格を取得し今後は福祉分野に関わっていきたいと思っていたもののなかなかインプットの時間が持てておらず悶々としていたのですが、やっと勉強会的なものに参加することができました。 

今回参加したのは、「にんしんSOS東京」という団体(一般社団法人)が主催する勉強会。

「こんな窓口があるんだ」「こんな現状なんだ」ということを知ってもらえたらという気持ちを込めて、簡単に内容と感じたことを記録しておきます。 



「にんしんSOS東京」とは



「にんしんSOS東京」は、全国の妊娠相談窓口にも東京からの妊娠相談が寄せられているという事実を知り、東京にこうした受け皿が無かったことから創設された、妊娠に関する相談業務を行う団体です。「にんしんSOS東京」の公式サイトによると、2015年12月に相談支援業務を開始し、既に180人の相談に乗り、特別養子縁組に至ったケースも3組あるそうです。

現在はメールと電話で相談を受け付けていて、電話の場合の相談受付時間は16時〜24時。電話代は最大30円程度で済むシステムを利用しているようです。一方メールは24時間受付、24時間以内の返信を心がけているとのこと。

私はこの勉強会がきっかけで「にんしんSOS東京」の存在を知ったのですが、現在全国でこのように、32ほどの団体が妊娠に関する相談窓口を設けているようです。
 

妊娠相談窓口の設置にはどんな社会的意義があるのか



今回の勉強会では、TBSドラマ『こうのとりのゆりかご』で主演の薬丸ひろこさんが演じた看護師のモデルにもなった田尻由貴子氏が、妊娠相談窓口の実態や支援のあるべき姿について講演を行いました。

田尻氏は看護師・保健師・助産師の経験があり、2007年から退職するまでの8年間、熊本県の慈恵病院という産婦人科で「こうのとりのゆりかご」という相談窓口の運営に携わってきた方です。




日本で「こうのとりのゆりかご」事業を始めるきっかけになったのは、田尻氏が2004年にドイツで視察した「Baby Klappe(ベビークラッペ)」という、どうしても育てられない赤ちゃんを託す施設の存在でした。

ドイツには胎児の命を守るため「妊娠葛藤法(SchKG)」という法律があり、妊娠中絶を行う3日前以上前に、国に1500程ある妊娠葛藤相談所にて「妊娠葛藤相談」を受けることが法律で義務付けられています。 日本では妊娠に関する法律としては「母体保護法」がありますが、日本では母体の保護を優先しているのに対し、ドイツでは胎児の保護を優先的に考えているのですね。このあたりからも、国ごとの考え方が垣間見れてとても興味深い。

中絶は相談所の証明がないとできない決まりになっていて、出産が困難だと感じている人に対して専門の相談員が話を聞き、抱えている悩みに対して「こんな方法もある」「こんな支援団体もある」などの可能性を提示してくれるとのこと。 

 さらにドイツでは、「匿名出産」が公的に認められている珍しい国でもあります。この「匿名出産」とは、自分が出産したことを知られたくない女性が身元を明かさず出産することです。出産後はマザーチャイルドハウスという母子寮にて8週間過ごし、その後に「自分で育てるか」「養子に出すか」を選択します。最終的には、約半数の母親が自分で育てることを決めたのだとか。

このように、妊娠期から相談できる環境が整っていれば親に対してもリーチができ、結果として新生児・乳幼児の遺棄や虐待を未然に防ぐことができる。田尻氏はこうして日本でも「こうのとりのゆりかご」を設置することにしたそうです。

(詳しくは慈恵病院のこちらのページにも書かれています)

慈恵病院で行われている「こうのとりのゆりかご」事業の実態と問題提起



田尻氏は、熊本市用保護児童対策地域協議会こうのとりのゆりかご専門部会による第3回検証報告書に基づき、データを紹介してくださいました。

以下に概要を箇条書きでまとめます。

・「こうのとりのゆりかご」への赤ちゃんの預け入れは平成19年から平成26年で計125件、平均すると年間15〜6件
・父母等の居住地は熊本県外が92%
・ゆりかごを利用した理由の上位は「生活困窮」「未婚」「世間体・戸籍」
・電話相談は8年間で9248件、中でもドラマが放映された翌年の平成26年には年間4036件とそのうちのほぼ半数で、ドラマが認知につながった
・電話相談の地域は県外が83%
・10代が12%、15歳未満も1%だが67人
・相談内容の25%が思いがけない妊娠、その内訳の上位は「未婚の妊娠」「若年妊娠」「不倫」

こうした実態を受け、社会的課題として以下の9つが提示されました。

1.性意識の低下
2.性行為の低年齢化
3.若年層の性感染症の増加
4.若年層の人工妊娠中絶の増加
5.自己責任の欠如
6.児童虐待相談件数の急増
7.青少年犯罪の劣悪さ
8.社会的育児支援の貧困
9.家族のきずなの薄弱


特に児童虐待に関しては、平成25年度で73,765件に上り、5年間で約2倍、13年間で約10倍に増えています。虐待により1週間に1人が死亡しているという実情もあり、なかでも0ヶ月の新生児が圧倒的に多いとのこと。(0歳児のうち0ヶ月が48%というデータが紹介されました)

虐待の種類は心理的虐待、身体的虐待、ネグレクトがほぼ3分の1ずつ。主な加害者の9割は母親で、母親の問題としては「望まない妊娠」が50%、「若年出産経験あり」が30%。周囲との関わりは「ほとんどない」「乏しい」合わせて62%で、母子手帳未発行者、妊婦健診未受診者がともに9割を超えているようです。

慈恵病院は平成26年全国虐待防止学会でこうした現状と課題を発表し、「県外の相談窓口」「全国ネットワーク」「財政支援」の必要性を訴えました。

(田尻氏によると「こうのとりのゆりかご」に対して経済支援は0。病院の持ち出し+寄付によって運営されているので財政的には大赤字だそうです。)

0歳児の親として、社会福祉士として



ここからは私個人の感想になるのですが、0歳児を11ヶ月育ててきて、子育てってやはり大変なものだと実感しています。

私の場合は夫、両親義両親ともに協力的で、息子も健康。それでも「なんでこんなに泣くんだろう」「なんで寝てくれないんだろう」とうんざりしたり、「離乳食をつくるのに疲れた」「一日中子どもと遊ぶのはしんどい」と思ったり、「育児もして家事もして、自分の時間がない」「どんどん自分がみすぼらしくボロボロになっている気がする」と悲しくなったりすることもしばしば。

本当に息子には申し訳ないけれど、新生児のときは寝不足が続いていて疲弊していたこともあり、30分以上泣き続けても泣き止む気配のない息子の泣き声を聞きながら、自分の子どもすら泣き止ませることのできない自分がいやになって、どうしたら泣き止むんだろうか、口をふさいでしまおうかという考えが頭をよぎってしまったこともあります。そのときは、たとえ自分はしないと思っていたとしても虐待の可能性ってあり得るんだなと感じました。

妊娠出産に関してさほど問題のないアラサーの私でもこんな気持ちになったのだから、パートナーの協力が得られなかったり、経済的に困窮していたり、若かったりなどいろいろな問題を抱えていたら不安だし、虐待してしまうのは決しておかしなことではないと思う。 

だから、それを防ぐためには、たとえばパートナーの協力を上手く得るためにコミュニケーションも必要だし、経済的支援も必要だし、困ったことがあれば相談できる窓口も必要。相談窓口があれば、相手に必要なのは人間関係の改善なのか、社会資源なのかを判断して悩みに対して適切なアドバイスすることが可能です。妊娠や出産に関して、自分だけで抱え込まないで、頼れる専門家に相談できる環境があることは、とても大切なことだと思います。

勉強会で行われたパネルディスカッションの中でも、「それぞれの立場で、あなたにできることを考えて周囲の人に話してみましょう」という時間がありました。 親として、以外に私がソーシャルワーカーとしてできることはなんだろうかとも考えてみました。 

行き着いたのは「知ること」「知らせること」「行動すること」

知識が圧倒的に足りないことは自覚しているので、社会問題について勉強し、知識を蓄えること。興味を持って知ったちょっと難しいことを、専門知識がなくてもわかるようにわかりやすい言葉で伝えること。そして自分ができることを考えて、考えるだけではなく行動に移すこと。この3つが大切なんじゃないかな。

私は社会福祉士資格を保有しているとはいえ、社会福祉士としての現場経験がありません。ただ、現在ウェブ上で悩み相談にあたるサービスに関わっているので、その活動に得た知識を活かしていけると良いのではないかと思っています。


おわりに



「妊娠」は子どもを産むための第一歩。妊娠がなければ、子どもは生まれず少子化も進行します。

そんな「妊娠」に関して、親になる人を社会としてケアし、サポートすることは重要なことだし、親ができるだけスッキリした気持ちで育児をすることは子どもの健やかな成長にとっても大切。

私が関わっているサービスで中高生からの相談に乗ることもあるのですが、親の「無理解」「過干渉」「過度の期待」などで悩み、それを誰にも言えず抱えて傷ついている子どももいます。 虐待にはならなかったとしても、こういうのも見えづらい社会問題だと思う。

子どもはやっぱり親を選べない。でもどんな親でも、子どもにとっては唯一の親で、好きでいたい存在。だからこそ、親も子どもにとって良い関わりをする義務はあると思います。

同時に、自分が親になって特に実感しているけれど、親だって未熟なんです。親になったこともないし、人間を育てたこともない。自分がどうやって育ってきたかしか知らないから、貧困や虐待は連鎖する。それを断ち切るためには、産まれてくる子どもはもちろんだけど、新米の親に対してもっと積極的に介入してもいいのかもしれない。にんしんSOSは、そういう高リスクの妊婦に対する福祉として、重要な役割を担っていると思います。民間だけで運営するのは厳しいから、財政支援はあった方がいいと思うのだけど…

また相談員は、社会資源の斡旋だけでなく、もっとコミュニケーションとか、知識の得方とか、物の考え方とか、そういうところまで支援できると良いんだろうな。ソーシャルワーカーにできることは、たくさんあると感じました。